統帥権と非常大権
戦前の日本においては、1930年代に陸軍大学校編『統帥参考』(復刻版、田中書店、1983年)には非常大権の項があり、戦時や国家事変の折は兵権を行使する機関は軍事上必要な限度において、軍が直接に国民を統治することができると定められている。非常大権は大日本帝国における統帥権の中でも究極の緊急避難措置であったが、次第に非常事態における軍部の権限が事実上、常態化し軍部の独裁を招いたとされる。治安維持法にはじまり国家総動員法により、法による有事の常態化を招いた。
まず、国家の基本法である「憲法」の停止・制限は法律・命令ではできないことを確認しておきたい。そこで、「憲法」の停止・制限をする権能は「憲法を超えた権能」でなければならず、「国家緊急権」は「憲法を超えた権能」ということになる。「国家緊急権を発動して憲法を停止・制限する」ということは制定法上「憲法違反」を犯すことであり、正当化できる根拠は「国家存続の危機の排除という必要性」のみである。
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憲法を停止するということは、国家権力が「憲法以下の制定法」のコントロールを全く受けないということである。つまり、法律上何のコントロールも受けない独裁権力が現出するということである。憲法を持つ民主主義国家が「独裁権力」を予め想定するということはありえない。 王権の横暴を封じるために市民が王と交わした約束から発展してきたものが憲法である。憲法は民主主義の思想を成文化したものだといえる。憲法を停止するということは、民主主義を停止するということである。だから、民主主義国家では憲法を停止することは想定されていない。
政府が「憲法が想定しない権力の発動」をとる場合、その権力の発動を正当化するために憲法を越えた国家緊急権の概念が必要とされるのである。
憲法と国家権力について考える場合、憲法の手続きによらず成立したクーデター政権や革命政権、天皇の大権が憲法の上に存在する大日本帝国、憲法が最高法規とされる民主国家を混同して論じた主張が多く見られる。